発信

日本最大のオペラ「素戔鳴(すさのお)」

文化の“発信”は人に尽くす精神と行動に


 古代日本の荒らぶる男の愛とロマン。――神奈川芸術文化財団の主催による第1回神奈川芸術フェスティバルのメーン行事として、日本書紀古事記を題材にした動の人間ドラマ〜オペラ「素戔嗚(すさのお)」が今30日、111日、3日に上演されます。これは、同財団の副理事長・芸術総監督を務める作曲家の團伊玖磨氏が構10年、作曲3年の歳を費やした、日本史上最大のスケールのオペラといわれています。そこで今回は、團氏にご登場願い、神奈川の原副会長、高柳総県婦人部長と、オペラや文化の交流などをめぐって、語り合っていただきました。


原●お住まいは横須賀の秋谷とお聞きしていますが。


團●はい、そうです。


原●私も40年ほど、湘南の地に住んでいました。


團●そうですか。


原●近隣に文化人が多く住んでいたそうですね。


團●そうですね。鎌倉に住んでいた時は、特に数多くの優れた文士たちがいました。


原●特に明治、大正、昭和の初期に多くの作家や画家が住み、鎌倉は“文化的”居住地だった印象が強いですね。


團●昔は、そうでした。地元の文化人が、その地の文化を担ってきました。しかし、これからは、限られた一部の文化人ではなく、その地に住んでいる人たちの時代です。つまり、地元住民から何が生まれるか、が問われるといます。
 神奈川県は800万の人口を抱えており、現在もどんどん増えています。県の内在力は非常に大きいといます。そうしたことから、県民のニーズに応えた、独自の文化を創造していきたいと考えています。


高柳●4に行われた第1回神奈川芸術フェスティバル開催の記者会見で、「神奈川から主体的に文化の発信を」と話されたとうかがっています。


團●文化というのは、まず“発信”にあるといます。“発信”するものがなければ、本当の文化とはいえないですね。“受信”だけでは不完全です。“受信”もして、“発信”もして相互に高まらなくてはいけない。今までの日本は、海外文化の“受信”が中でしたが、これからは経済的には豊かになった日本から、今後、何を“発信”していくかが大切ですね。


原●国内的には、東京が中で神奈川は受け手という印象がありますね。


團●そうですね。そういった味からも、今回の芸術フェスティバルを神奈川で開催できるのは、非常に義があります。神奈川を単に有にするというのではなく、まず県民の幸せを考え、そして、県民の向こうに国民があり、国民の向こうに世界があるとの視点で取り組んでいます。自分をすり減らしても、何を訴え、どうすれば人さまを幸せにできるか、という姿勢が“発信”の原則です。それが、神奈川県にあることが、大変うれしいことです。


原●戸田第二代会長が「原水爆禁止宣言」を発表した地である神奈川の創価学会でも、昭和59年に世界平和のいを込め、4万人の出演者で、平和を音と光で表現した「青年平和音楽祭」を行いました。


高柳●芸術フェスティバルで上演されるオペラ「素戔嗚(すさのお)」は、題材を日本書紀古事記から選ばれたそうですが、どういう理由からでしょうか。


團●歴史を振り返ると、日本書紀古事記は、軍国主義に利用された歴史があり、そのためそれに触れるのをはばかられる風潮がありました。しかし、それぞれの民族、国家には、太古の時代を通して人間の本質に迫る文献があります。日本書紀古事記は日本が生んだ大事な文化遺産です。そこで、もう一度それらを再評価し、浮かび上がったのが、「素戔嗚(すさのお)」でした。荒々しい男の真実の姿がそこにはあるとったからです。


原●文字ができる以前の“人間”に興味を持たれたわけですね。


團●そうですね。その時代の人間の姿ですね。また、オペラの発生というのは、西洋でも全部ギリシャ神話というのが、基になっています。そういうことからも、本格的なオペラを日本でつくるのに、こうした古典から題材を求めたわけです。


高柳●オペラを創作し、上演するまでには大変なご労があるのでは……。


團●まず、楽の技術を究(きわ)めなくてはなりません。そして、演劇、管弦楽等、勉強することがたくさんあり、長い時間を費やします。ですから、皆で協力しあわなければできません。これこそ文化の“発信”にふさわしいといえるのではないでしょうか。


原●オペラに日本語は適しているのでしょうか。


團●英語は3割、ドイツ語では6割が聞き取れ、日本語は8割、イタリア語は9割と言われていますから、結構わかりやすいといます。「素戔嗚(すさのお)」は古語で書きました。現代語でないので、その面白さが出せたらとっています。現代語でオペラを書くと、観客は科白(せりふ)を全部聞きたくなって、音楽を聞かなくなってしまいます。


高柳●見て欲しいところを強いてあげれば、どんなところでしょうか。


團●たくさんありますね。まず、初めに有な「光り満ち」という太陽が出る壮大な場面ですね。それから、素戔嗚(すさのお)が鮮に流されるところで、舞台は「海」になります。全部海の色の布で覆われ、何もないところで音楽だけを流すという面白いところもあります。また、一見、ニューファッションに見えて、妙に原始的な衣装なども興味深いのではないかといます。


高柳●楽しみにしています。


原●オペラといえば、先生の有な作品に「夕鶴」がありますね。


團●40年前に初演してから600回の演奏を数えます。


高柳●すごい回数ですね。


團●少しでも、より良いものにとのいでやってきました。作品を放置していたら駄目です。つくったということによって責任があります。植えた木を育てるのと同じです。


原●「夕鶴」は海外でも数多く公演されているそうですね。


團●スイスから始まり、ドイツ、アメリカ、アジアでは北鮮(鮮民主主義人民共和国)、フィリピン、台湾、タイなどで公演しました。


高柳●音楽は世界共通の“言語”ですね。


團●自分でも不議なくらいにそのことを実します。


原●文化の交流は、世界の人と人とのを結ぶ大事な懸け橋ですね。


團●これから、盛んにしていかなくてはいけませんし、していく決です。


原●日本にある素晴らしい文化をいかに世界の人々に伝えるか、ということを真剣に考えている人があまりにも少ない、とのがあるそうですが……。


團●残ながらその通りです。私自身は、個人的に行っていますが、やはり限界があります。出来るなら、フランスのように国が文化センターを設立し、どんどん世界に紹介していくのが望ましいといます。


原●学会でも、世界平和を目指し、文化交流に力を入れてまいりました。


團●よく存じあげています。これからも、ご活躍されることを願します。


高柳●先生はかつて「日本文化にとってインドは祖父母で中国は両親、兄・姉は鮮」と述べられていたことが、印象に残っています。


團●東洋の文化のルーツはインドです。そして、中国、鮮を通って来て、日本があります。ですから、日本はもっと謙虚にならなくてはならないといます。


原●同です。


團●日本は西洋文明をうまく取り入れることに成功し、経済的に豊かになりました。しかし、現在の繁栄におごることなく、日本の礎は東洋文明から成り立っていることを忘れてはならないし、進んでアジアに貢献すべきではないでしょうか。

生涯学習”の気で


高柳●中国は日本に教を伝えた大ある国です。その味からも学会は、池田誉会長が9度にわたって訪中するなど日中友好の“金の橋”を築いてきました。


團●中国からは教など多くのことを伝えてもらいました。現在、日本は中国の字を使っていますが、それだけでも、どれだけ使用料を払ったらいいのか(笑い)。まさに、中国は日本にとって、お父さん、お母さんです。


原●後輩の育成にも取り組まれているわけですが、そこで日ごろ、じられていることがありますか。


團●若者に対し、いろいろな見があろうかといますが、優秀な人はたくさんいます。そこに希望をかけていきたいですね。ただ、自分をよく見つめ、自分は何をやりたいのかを考え、常に興味を持つことです。そこに、人のためという点がプラスされたらといます。自分の人生を人の幸せのために少しでも役に立たせていく、それが累積されていくならば、実に大きなものが形成されていくことになります。


高柳●利己的な風潮がはびこっている今日、ややもすると利他の精神が薄らいでいるようにもじてなりません。


團●そうですね。そうしたことは、学校ではなかなか学べませんから。そういったことからも、創価学会のご活躍に期待します。


原●恐縮です。


高柳●人間は人のために尽くすことに、本然的な幸せを実できるんでしょうね。


團●人間は一人では生きていけませんからね。演奏会にしても、観客がこなければ出来ません。受け手があって初めて“発信”があります。まず、相手に何かを差し上げることから文化の交流は始まるといます。


高柳●古希を迎えられながらも、ますますお仕事に励まれている姿には銘いたします。


團●これからです。ますます勉強していきます。作曲に限らず何をするにも同じでしょうが、あることを“一”つくるのには、それを支えるのに“十”のものが必要です。表には出ない知識や経験などが、作品をつくり上げていくために、数多く要求されます。


高柳●素晴らしい作品の誕生の裏には、並々ならぬご努力があることが、よく分かりました。


原●池田誉会長も「人生は生涯学習」といわれています。


團●その通りです。これでいいということは、ありません。


原・高柳●神奈川芸術フェスティバルの大成功をお祈りしております。


《まつばら たかあき/副会長。昭和21年、神奈川県藤沢市生まれ。早稲田大学法学部卒》


《たかやなぎ ようこ/全国婦人部長。東京都生まれ。津田塾大学卒》


【日曜てい談/聖教新聞 1994-10-16付】