自爆テロ


 世界を無関が覆い尽くし、政治が不平等を助長すると、多くの人々が殺される。そして、残された唯一の抵抗手段は暴力となる。

 突然その一人の体が崩れた。私には何が起こったのか分からなかった。そして彼の体が地面に崩れるように倒れた時、私ははじめて彼が撃たれたことを知った。
 彼を貫いたのはイスラエル狙撃兵のたった一発の銃弾だった。彼は叫びを上げることもなく、そのままを引き取った。
 打ち砕かれたのは、彼の抵抗の志だった。それもあっけなく、たった一発で彼は静かに死んだ。あとにはそこにい合わせたパレスチナ兵士にも少数のジャーナリストにも、重しい沈黙が襲った。男は、自分の町に侵入した軍隊に対して小火器で応戦して、欧米から「テロリスト」として指されたまま、死んでいったのだ。
 このとき私は、抵抗の表示の時代が、あの兵士の死で終わったようにった。この頃、圧倒的に多くのパレスチナ人が、イスラエルに対抗するにはやはり自爆テロしかないと考え始めたのである。
 2002年127日、エルサレムで女による自爆テロが起こった。ラマラの民キャンプに住む女だった。女自爆テロ参加ははじめてであった。絶望するパレスチナ人社会で自爆テロへの参加希望者のすそ野が一挙に広がった。


【『パレスチナ 新版』広河隆一〈ひろかわ・りゅういち〉(岩波新書2002年)】


パレスチナ新版 (岩波新書)