権利を無視されるパレスチナ人

『もし旦那さんも神さまの御配慮によって、もうすでにいろいろ事情を伝え聞いているなら、旦那さんが、“あいつを自由にすることでいったい自分に何の得があるのか?”って自問すれば、その答えは至極簡単、“無”ってことになるでしょう。なぜって俺は一票の選挙権も持たないんですからね。俺はどんな風に見ても国民の一人とは考えられていないんですから。国というものは、折おり国民にどうかねって様子をたずねてくれるもんでしょうが、俺はその国というやつと、つながりを持たされていないんですよ。俺は声をあげて抗うことも禁じられているんですよ。わめき声をあげる権利はねえんです。そうやることで、国はどんな得をするってんでしょうかねえ。何も得なんてありゃしませんよ。それじゃあ俺が錠をおろされて、とじこめられたままでじっとしていたとしたら、国は何か損をすることでもありますか? やっぱりどうってことはないでしょう』


【『ハイファに戻って/太陽の男たち』ガッサーン・カナファーニー/黒田寿郎、奴田原睦明〈ぬたはら・のぶあき〉訳(河出書房新社1978年〈『現代アラブ小説集 7』〉/新装新版、2009年)】


ハイファに戻って/太陽の男たち