短い修業時代

 つらい修業といったって何年もつづくわけではないのです。長い人生のうちにほんの5年か6年、あるいは7年か8年、こういう思いをするのは当たり前だし、私なんか6年ちょっとの修業のおかげで、それ以後、自分が生活をし、女房、子供を養い、さらに私のお袋まで背負っていけるわけですから。そして振り返ってみますと、つらかったなんていうことも、考えてみるとそれほど大したことではないのです。しかも、わずか6年ちょっとの修業で、死ぬまでの間、おまんまがいただけるなんていうのは、考えてみれば、ほんとに安い修業ですし、短い修業だったと思います。(中略)ですから、そういうことを考えますと、我慢をしたかしないかということの差が、その人のあとあとの人生の勝負にずいぶん影響をおよぼすんじゃないかと思うのです。


【『神田鶴八鮨ばなし』師岡幸夫〈もろおか・ゆきお〉(草思社1986年/新潮文庫2003年)】


神田鶴八鮨ばなし (新潮文庫)