権威に関する四つの理論

 権威の理論は稀であるとはいえ、まったくないわけではない。いくつかのヴァリアントを除いてしまえば、互いに異なる(本質的な違いがあり、互いに還元できない)【四つの理論】がこれまでの歴史のなかで提起されたと言えよう。
(1)神学的または神聖政治的な理論
 第一次的で絶対的な権威は神に属する。他のすべての権威(相対的な権威)はそこから派生する。(この理論ではとりわけスコラ学派によって作り上げられたが、「正統」君主政論者、さらには世襲君主政論者も同じようにこの理論に依拠している。)
(2)プラトンの理論
 権威(「正当な」または「正統な」)は「正義」または「公平」に基づき、またそこから流れ出てくる。これとは別の性格をもつ「権威」はすべて偽−権威でしかなく、実際には「物理的強制力」(多少とも「粗野な」)以外の何ものでもない。
(3)アリストテレスの理論
 この理論は権威を知恵、知一般によって、すなわち【予見する】能力や直接的現在を超越する可能性によって正統かする。
(4)ヘーゲルの理論
 この理論は権威の関係を、主人と奴隷(勝者と敗者)の関係に還元する。主人は自己を他者に「承認」させるために自分の生命を危険にさらす覚悟をもっているが、奴隷は死よりも屈従を選ぶ。
 不幸にも、現象学的記述の面でも形而上学的分析と存在論的分析の面でも哲学的に完全に仕上げられた理論は最後の理論(ヘーゲルの理論)だけであった。他の諸理論は現象学の域を越え出ることはなかった(しかもそれらは、この現象学の領域においてすらけっして完全ではなかった)。
(ただし次のことは言っておかなくてはならない。ヘーゲルの理論はけっして本当には理解されず、じつにすばやく忘れ去られてしまった。だからヘーゲルの最も重要な継承者――マルクス――でさえ、権威の問題をまったく無視してしまったのである。)


【『権威の概念』アレクサンドル・コジェーヴ:今村真介訳(法政大学出版局、2010年)】


権威の概念 (叢書・ウニベルシタス)